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千分の一話噺

第75章 俺とあいつ③・夏祭り


「夏はやっぱりコレだよね!」
あいつが久しぶりに帰って来たので、二人で夏祭りに来ている。

シャリッとした食感に、フワッと溶けるけど頭にキーンとくる冷たさ。
このハーモニーが堪らない『かき氷』。

シャカシャカと氷の塊を、カップに山盛りに削り、鮮やかな緑色のメロン風味なシロップがかけられた『かき氷』。

ガキの頃の夏祭りの楽しみの一つだった。


「一口ちょうだい♪」
あいつはいつも俺のメロンのかき氷を一口奪う。
「あっ!じゃあ俺にも一口よこせ!」
「あ~げない♪」
あいつは真っ赤なイチゴのかき氷を俺から遠ざける。
いつものたわいないやり取りだ。


あれから十何年も経っているのにあいつは変わらない。
「一口ちょうだい♪」
俺の隙を見て鮮やかに奪っていく。
「おまえ、まだそんな事するのか?」
少し呆れている俺にあいつはニッコリと微笑んだ。
「だって一口だけメロン食べたいんだもん」
「俺にもイチゴ一口よこせ!」
「やだよ~」
俺のスプーンをサッと躱して、またニッコリと微笑む。

久しぶりだと言うのにこの微笑みには、やっぱり俺は勝てないようだ。

「おまえ、卑怯だぞ!」
俺の文句もどこ吹く風のように、涼しい顔してかき氷を頬張っている。

今年の夏もこいつに振り回されそうだ。


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