第740章 駄々を捏ねるのは大人だけ?
「お願いします!
これを譲って下さい!」
男は土下座して懇願した。
男はショーケースに飾ってあるオモチャを欲しがっていた。
「お客様、これはこの店のオーナーのコレクションです
非売品ですので、どうぞ、お引き取りを…」
店長が出てきたが、男はそれでも土下座している。
「では、そのオーナーに会わせて下さい!!」
頑として引く様子はなかった。
周りの客はドン引きしている。
「ママ、何あれ?」
「見ちゃいけません!」
子供連れの多い大手のオモチャチェーン店、明らかに異様な光景だった。
「みんなで何してるの?」
そこに現れたのは、コンビニおでんのカップを抱えている少女だった。
「お嬢様!歩きながら食べるなんてはしたないですよ!」
後から着いてきた女性が注意する。
「え~、だってすぐ食べないと冷めちゃうじゃん!」
少女はそう言いながら大根を頬張った。
「オーナー!?…どうして?」
店長が少女に頭を下げた。
「…うん、おでんが食べたかったから、すぐそこのコンビニに来たの!」
少女は竹輪を頬張った。
「こ、こんな子供がオーナー?」
男は愕然とした。
オモチャの大手チェーン店のオーナーが少女なんて聞けば誰でも驚くが、亡き創業者が孫の彼女に相続させた。
実質的な経営は社長である父親だが、孫娘がオーナーとなれば話題にもなる。
男は思いきって少女に土下座した。
「あそこに飾ってあるオモチャを譲って下さい!」
少女はちらっとショーケースを見た。
「うん、良いよ」
周りにいた大人は、男を含めてみんな唖然としていた。
「い、良いんですか?…先代のコレクションですが!?」
店長が確認する。
「うん、私アレ嫌いだから!」
少女はサラッと言って、煮卵を頬張った。
男は店長が提示した金額を払い、オモチャを抱えニコニコ顔で帰っていった。
「うふ、オモチャ屋さんなんだから、オモチャは売らないとね」
少女は笑顔で男を見送った。
end