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千分の一話噺

第74章 王子様


小さい頃、大人になったら紫陽花の咲く季節に素敵な白馬の王子様が私を迎えに来てくれると信じていた。



あれから、うん十年…。


「こら!そこっ!
何やってんの!邪魔よっ!」
今の私は夢見る少女からは程遠い建設現場で作業管理をしてる。
周りの男達は肉体労働者ばかり、とても白馬の王子様なんて呼べない。

これでも、見た目は良い方だと思うし、言い寄る男だって何人もいた。
「あんた理想が高すぎるのよ
白馬の王子なんて現れないからね」
よく友達から言われた。
そんな事は自分でも十分分かっている…けど。
「適当な男で妥協して結婚なんて出来ないわ」
と、突っ張ってみせていた。
しかし、正直言うと未だに白馬の王子様を待っていた。


「そこっ!?…(えっ?誰?)
危険だから入らないで下さい」
明らかに作業員じゃない人がいた。
「どちら様ですか?
作業中ですから中には入らないで頂けますか」
私はその人に注意をすると、その人はにこりと微笑み出て行った。
私は首を傾げながらも今日の作業を続けた。

作業が終わり現場事務所に戻ると、さっきの人がいた。
「先程は失礼しました」
その人は爽やかな笑顔で軽く頭を下げた。
「あの…どちら様ですか?」
私の質問に上司が答えた。
「こちらはこのビルの御施主様だよ」
私はびっくりして、さっきの失礼を詫びた。
「いや、私が勝手に入ったのが悪いんだ」
まだ四十代くらいのようだが、礼儀正しくまるで王子様のような…。


仕事帰りに、雨に濡れる紫陽花を見て、さっきの王子様が白いリムジンで迎えに来てくれる妄想をした。

(…有り得ないわね
ドラマじゃあるまいし…)



end
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