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千分の一話噺

第735章 おじいさんとおばあさんとソフトクリームと…


おじいさんの誕生日に孫娘がお祝いに来た。
「おじいちゃん、今年でプラチナエイジだね」
「…プラチナ?なんだい、それは?」
おじいさんは首を傾げた。
「60歳以上の人の事なんだって!」
「ふ~ん、何でも横文字にすれば良いってもんじゃない…
日本には還暦って素晴らしい言葉があるんだから…」

還暦とは、60年で十干十二支が一巡して〝もとの暦に還る〟本卦還《ほんけがえ》りに由来している。
お祝いに赤いちゃんちゃんこを着るのは赤子に戻り、もう一度生まれ変わって出直すという意味がある。

「おじいちゃん、生まれ変わるの?」
「まあ、そう言う気持ちで残りの人生を生きていくって事だな」
おじいさんは自分に言い聞かせるように話した。


その日の夜、おじいさんは夢を見た。

「…信助さん」
「ん?誰かな?」
おじいさんは誰か分からず聞き返した。
「聡子ですよ」
「聡子?…ばあさんか?
どうして…」
それは今は亡き、おばあさんの若き日の姿だった。
「還暦を迎えたんでしょ?おめでとうございます」
「まだ…、しばらくはそっちに行けそうもないけどな」
おじいさんはすまなそうに頭を下げる。
「そんな事を言わず、私の分まで長生きして下さいね
若い頃、私をナンパしたように新しい人を見付けても良いのよ?」
「な、ナンパなんかしてないぞ!」
おじいさんは慌てて否定するが…。
「あら?一緒にソフトクリーム食べない?って誘ってくれたでしょ?」
「あれは…、その…、お前だからだよ
他の女なんかに声掛けるわけないだろ!
俺は例え生まれ変わってもお前一筋なんだ!」
おばあさんは顔を赤らめた。
「うふふ、プロポーズの時も同じような事を言ってたわね」
「なっ…、そんな昔の事は忘れた!」
おじいさんは照れた。

「…そろそろ時間ですね
信助さん、長生きしてね…」
おばあさんは、すーっと消えていった。
「聡子!もうちょっと…」
おじいさんは手を伸ばすも届かなかった。

おじいさんは目を覚まし、おばあさんの遺影に手を合わす。
「聡子…
次はソフトクリーム食べに行こうな」


end


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