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千分の一話噺

第721章 覚醒


私の友人に2月29日生まれの人がいる。

昔は戸籍の誕生日を2月28日や3月1日に変更出来たらしいけど、今はそのまま登録しているようだ。
珍しいけど、それなりにはいるはず…。

小学校時代からの友人なのだが、ちょっと変わっている。
「僕は本当はまだ2歳半なんだ」
閏年生まれって事は10歳の時に話してくれた。
冗談で言う人は多いと思うけど、彼は本気だった。

「僕は選ばれた人間なんだ
だから人の四倍生きる事が出来るんだ
僕は世界を変える人間になるって、パパとママと神様に言われてるんだ」
彼の親は宗教団体の教祖をしていて、その影響で自分は特別なんだと思い込んでいる。
「本当にそんな事が出来ると思ってるの?」
私は本気で心配していた。

普段は明るくて思いやりもあって優しい人だ。
高校時代の成績は学年トップクラス、サッカー部のキャプテンで全国大会にも出場した。
彼は『神様のおかげ』と言うが、私は必死に努力している彼を見ている。
両親の期待に応えたいと思っているようだ。

大学は別々だったからよく分からないんだけど、たまにメールでやり取りはしていた。
『今度、テレビに出るよ』
そんなメールが着て、私は教えられた番組を見た。


「今噂の現役東大生アイドルで~す!」

彼はアイドルとして歌番組に出ていた。
異様にテンションが高く、別人かと見間違うくらいだ。
しかも歌も踊りも完璧だった。

それがきっかけとなり爆発的な人気で世界へも進出した。
あっという間にスーパースターの仲間入りを果たし、もう宗教には関心ないんだと思っていた。

ある日、彼は全世界に向けてメッセージを発信した。

「この世界は僕が支配する!」

彼のファンは全て信者となり、その数は十億とも二十億とも言われた。
世界を変えるには十分な数だ。

「僕と一緒に世界を変えよう!」

彼の目は不気味に赤く光っていた。


end


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