第713章 俺の人生ゲーム
「う~、寒い寒い…」
仕事始めは憂鬱だ。
正月休みはずっと家にいて、ぬくぬくだったから外に出ることすら気が重かった。
コート着て、マフラーして、手袋はめて、それでも寒いからカイロも準備して、完全防寒で出社した。
早速、課長に新年の挨拶をする。
「あっ課長、あけおめ~、ことよろ~」
「ちょっと待て!」
「は?なんすか?」
「お前はちゃんと挨拶も出来ないのか!?」
早速、課長の説教だ。
「今の若い奴らはこれでいいんすよ」
「お前はもう五十だろ…
そんなんだからいつまでも平なんだよ
いいか?これから益々格差社会になるんだぞ
お前みたいな負け組はどんどん生き辛くなる
分かってるのか?」
「お言葉ですが…
勝ち組とか負け組とか言うけど、何が勝ちで何が負けなんすか?
お金っすか?地位っすか?そんなもん他人の価値観でしょ?勝ち負けは自分で決めますよ」
「じゃあ、金も地位もないお前は何が勝ってると言うんだ?」
「勝ち負けとか、金や地位だけが人生じゃないでしょ?
いかに楽しく生きるかじゃないんすか?
まあ、金はあるに越したことはないけど、金持ちが幸せとは限らないしね」
「そういうのを負け犬の遠吠えって言うんだよ!」
「そうっすか?
俺は俺の価値観で生きてるんで…」
さすがの課長も呆れたのか、手の平をヒラヒラさせて俺を追い払った。
仕事初めの日は特にやることもなく、適当に仕事して定時になったら、さっさと帰る。
「う~、寒い寒い…」
帰る途中で赤提灯を見つけた。
「こんなところにおでんの屋台?」
暖簾を潜った。
「いらっしゃい!」
「え~と、大根と、ガンモと、竹輪麸と、ゴボ天とビールね」
マフラーと手袋を外してビールを飲みながらおでんをつつく。
「…やっぱり大根は勝ち組なのかな?
竹輪麸は絶対負け組だよな、俺は大好きだけど…」
俺の人生ゲームには勝ちも負けもない。
やり直しが出来るゲームじゃない一発勝負なんだから楽しまなくちゃね。
end