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千分の一話噺

第709章 怪盗?参多紅楼栖?


今、江戸の町ではある怪人物の噂で持ち切りである。

瓦版によると…。

大きな荷物を背負い、恰幅が良く、白髭を生やし、目立つ赤い服を着て、屋根の上を飛び歩く人物。
たくさんの家に忍び込んでいるが、どの家も何も盗まれた物はない。
それどころか、贈り物と手紙が置かれていた。

手紙には…。

『めりーくりすます

お子さんと一緒にこのけーきを食べて下さい

参多紅楼栖《さんたくろーす》』

贈り物は『けーき』と呼ばれる食べ物らしいが、奉行所から『危ないので食べてはならない』と御触れが出ている。


江戸の町民達は噂話が止まらない。

「参多って奴、あんな身体でよく屋根の上をひょいひょい飛び歩けるよな?」
八百屋の八さんが首を捻る。
「あれは絶対、着膨れだって!
あんな太ってたら屋根抜けるからな」
大工の隈さんが答える。

「忍者の変装かも?
しかし、何で忍び込んで何も盗まないんだろう?」
魚屋の太助さんが首を横に振る。
「盗まないで呪文みたいな言葉と怪しい食べ物を残して何がしたいのかな?」
浪人の新之助さんも首を傾げる。

「…でも、あの『けーき』って食べ物、甘い香りがして食べてみたいのよね」
隈さんの奥さんが思い出す。
「甘い香りで誘って食べさせるなんて絶対毒よ」
太助さんの奥さんが反対する。
「隠れて食べた娘がいるみたいよ
凄く甘くて美味しかったって!」
八さんの奥さんが聞いた話を言った。

「うちに来たら食べてみようかな?」
独り者の新之助が言うと…。
「子供がいるうちにしか来ないみたいだぜ」
隈さんから突っ込まれた。


この怪人物事件は仕事納めまで続くが、大晦日には忘れ去られていた。


end


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