第704章 フランスにも縁日はあるのか?
明日は地元神社の縁日なのに…。
縁あって出店を出させてもらえる事になり、屋台の準備も終わり、後はうちでパンを焼き上げれば良いだけだった。
国内の小麦粉で菓子パンや惣菜パンを作り、うちの看板商品のフランスパンはフランスで修行してフランス産の小麦粉で作る。
これが拘りで、分かる人には分かるフランスパンとしてそれなりに有名になった。
縁日二日前。
縁日用にいつもより小麦粉の量を多く発注していたのだが、よりによってフランス産の小麦粉がない。
「えっ!?なんでフランス産がないの!?」
いつも買っている業者に確認を取った。
『すいません!貨物便が遅れていて、まだうちに届いてないんですよ
今、運送屋に確認してますから…』
電話越しだが、営業担当者が頭を下げている姿が目に浮かぶが…。
「困るよ!何とかしてよっ!」
声を荒げたが物がない以上なにも出来ない。
うちのフランスパンは生地作りから焼き上げまで通常よりも長い時間を掛ける。
縁日当日に間に合わせるには、最悪でも今日中に手に入らないと…。
『すいません!
飛行機便が遅れて、明朝届けさせて頂きます!』
「ちょっと待った!朝じゃ間に合わないんだ!
何時でも良いから持って来いっ!」
小麦粉が届いたのは深夜零時を回っていた。
すぐに生地作りを始める。
縁日にはいつもの三倍のフランスパンを用意する予定だ。
「…今夜から徹夜だな」
通常営業分もあり、不眠不休でフランスパンを焼き上げる。
縁日当日午前4時。
「これを焼けば…」
最後のパンを焼き上げると、一気に眠気が襲ってきた。
「ね、眠い…、もう少ししたら…」
そこで記憶がなくなった。
「…たっ!あなたっ!」
妻の声で起こされた。
「う~ん…、今…何時だ?」
「もう3時ですよ!」
「そうか……3時だとっ!?
店は?縁日は!?俺のフランスパンはっ!?」
「もう、完売して終わりましたよ」
妻はあっさりと答えた。
まあ、完売なら苦労した甲斐があったな。
end