第670章 異世界アパート26
五月五日は端午の節句。
こどもの日ではあるけど、男の子の節句で女の私には直接関係ない。
でも、柏餅が大好きで、小さい頃は弟の分まで食べてよく怒られた。
「ねぇカタリナ、香りの良い葉っぱってないかな?」
「…香る葉っぱ?何するの?」
カタリナは首を傾げる。
「その葉っぱでお餅を包んで香りを楽しみながら食べるのよ」
グランロールスでも柏餅みたいなのが作れないか考えている。
「葉っぱも食べるの?」
カタリナはちょっと驚いている。
「食べられる葉っぱなら葉っぱごとでも良いかな」
「う~ん…ちょっと探してみるわね」
カタリナなら顔も広いしなんとかなるかも知れない。
私は日本に戻り、異世界《むこう》でも作れるお餅を考える。
GW中だから時間はたっぷりある。
試作するため食材の買い出しに出る。
「やっぱり小麦粉かな?
向こうにお米はないし、あんこもないからお餅にはならないわね」
ちょうど柏餅も売られていた。
「…シニア割?」
確かに若い人より高齢者の方が買っていると思う。
私は苦笑いしながら手に取った。
スーパーの外に出ると午後の日差しがコンクリートに反射して夏のような暑さになっている。
「うわ~、まだ五月なのに…」
足早に帰って、お餅代わりを試作する。
お餅は芋餅を焼かずに蒸して、中の餡は小豆の代わりに向こうで手に入る豆を甘く炊いて、何となくそれっぽい物になった。
「あとは柏の葉っぽいのが見つかれば、お菓子として売れるかも…」
試作したお餅を持ってグランロールスへの扉を開く。
ちょうどナタリーが庭の手入れをしていた。
「あら?アヤコ、出掛けるの?」
「お菓子の試作が出来たから、お店でカタリナに試食してもらうの…
ナタリーも来てよ」
二人で店に行くと、カタリナとゼクスが言い争っている。
「だから!俺がアヤコに渡すんだ!」
「あんたは料理の邪魔なのよ!」
ナタリーがずかずかと店に入った。
「あんたたちっ!!!」
こういう時のナタリーは最強だと思う。
香る葉はカタリナとゼクスが探してきてくれた。
その葉っぱでお餅を巻いて…。
「これで完成よ
食べてみて…」
出来上がりは柏餅とは全然違うけど、これはこれでアリだと思った。
end