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千分の一話噺

第668章 新緑の季節


「カァーッ!」

カラスが鳴いた。
桜の花も散り新緑が芽吹く頃、彼らは恋の季節である。

葉桜となった枝に二羽のカラスが舞い降りた。

「先輩、誰か良い娘いないすっカァ?」
「いるカァ!お前に紹介出来るくらいなら俺の彼女にするさ」
「あれ?先輩、去年の彼女はどうしたんすカァ?」
「ん?そっカァ、お前初めてだったな
俺達カラスは、つがいになったら群れから離れて巣を作るけど、子供が巣立ちしたらこうして群れに戻るんだ
彼女は別の群れに戻ったよ」

繁殖だけのつがいと言うのはカラスだけじゃなく、野生動物には珍しい事じゃない。
特に鳥は巣立ってしまえば一人前だ。

「あの彼女、他の群れだったんすカァ?
どこで知り合ったんすカァ?」
「俺達の餌場じゃあ群れのメスしかいないから、違う餌場で探したんだ」
「他の餌場っすカァ…
うちの餌場は人間が食べ物いっぱい出してくれるから良いんすよねぇ」
「他の餌場も同じようなもんだ
人間は食べ物を粗末にするからな」

ゴミを散らかすカラスは悪者とされるが、そもそも人間が食べ物をゴミとして出さなければカラスはゴミを漁る事はない。
カラスにしてみれば、人間のゴミ捨て場はレストランみたいなものなのだ。

「じゃあ、俺も他の餌場に行ってみるっす」
「行くのはいいが、あんまり派手にしてるとそこの群れのオスに喧嘩吹っ掛けられるぞ」
「それヤバいじゃないですカァ」
「おとなしくして群れに紛れることだな
とにかくヤバいと思ったらすぐ逃げろよ」
「分かったっす!」


若いカラスは葉桜の枝から飛んで行った。


end

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