第661章 異世界アパート25
今年は涼子の家で雛祭りをする事になった。
涼子の家には代々伝わる立派な雛壇がある。
「これっていつぐらいの物なの?」
「江戸時代って聞いたことあるわね」
涼子は実は良家のお嬢様でもある。
たくさんのご馳走に、お酒も入って機嫌よくなっていると涼子が…。
「そういえば、綾子って花粉症じゃなかった?」
「う、うん…栄養ドリンクいっぱい飲んでたら、いつの間にか治ってた」
誤魔化すしかなかった。
数年前から花粉症で困っていたけど、異世界《グランロールス》で魔法使いのローズさんに魔法で治してもらってから症状が出ない。
まさか魔法で治したなんて言えない。
「ふ~ん、ところで綾子…
私に隠してる事ない?」
「ギクッ……なんの事よ?」
意外に勘が鋭い時がある。
「白状しなさい!
男の悩みでしょ!?」
「えっ?何でそうなるのよ?」
さすがに異世界の事は分からないよね。
間違ってはいないけど、異世界《グランロールス》の事は話せない。
「どうも田舎に帰ってから変なのよね…
田舎に何人男がいるの!?」
「もう…そんな男なんかいないって言ったでしょ!」
田舎にだって何年も帰ってないのに…。
「涼子はどうなよ?
どこかの御曹司と付き合ってるって噂…」
「ああ、別れたわよ、それ…」
涼子はあっさりと答えた。
私は開いた口が塞がらなかった。
「私には綾子がいればそれで良いの♪」
そういって私に抱きついた。
私は呆れたまま窓の外を見た。
「…雪?」
季節外れの綿雪が舞っていた。
異世界《あっち》はまだ雪の中だけど、もう少しすれば春らしくなってくる。
end