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千分の一話噺

第659章 ひな祭りにはご用心


朝起きたらスマホにメールが届いていた。
「ん?…晃から?」
田舎の親友からだ。

『週末のひな祭り、逃げずにちゃんと来いよな』

「…はぁ」
ため息しか出ない。

ひな祭りと言うと雛人形を飾る桃の節句だが、うちの田舎のひな祭りは年男年女が衣裳を着て雛壇に並び人間雛人形になる。
今年は俺も年男、しかも何故か雛壇の一番上、内裏様の役をやるとこになっている。
「…何で俺が一番上なんだよ?」
これはたぶん晃の策略だろう。

帰省しないと言う手もあったが、それより先に晃から電話があった。

『慶次、ひな祭りにはちゃんと帰って来るんだろうな?
麗香も帰って来るんぜ
帰って来なかったら、あの事ばらすぞ』
「てめえ、脅す気か?」
『脅す?これは約束だろ?
24歳になったら…』
「ああ!分かってるよ!
ちゃんと帰る!」

昔の口約束を未だに覚えていて、事あるごとに持ち出してきやがる。

俺と晃と麗香は幼馴染み、高校卒業するまでは三人とも地元にいた。
晃は地元に残って就職が決まり、俺は東京の大学、麗香は京都の大学に進学が決まっていた。

あれは季節外れの綿雪が舞っていた俺が上京する時、晃が見送りに来てくれたのだが…。

「お前、麗香の事どうするつもりだ?」
「な、なんだよ?いきなり!」
「分かってるだろ?麗香はお前の事が好きなんだよ」
「…お互い違う大学だ
お互いどうなるか分からないだろ?
…もし、年男のひな祭りの時に気持ちが変わっていなければ俺から告白してやるよ」

売り言葉に買い言葉じゃないが、晃と約束してしまった。
もちろん俺も麗香の事は好きだったし、今でも好きな気持ちは変わっていない。

そして、ひな祭り当日がやってきた。
上京した時と同じように綿雪が舞っている。

「おっ、逃げずに来たな」
「当たり前だ、約束だからな」

衣裳に着替えて雛壇に上がると隣には麗香が座っていた。
これも晃が仕組んだ事だろう。
まったく、お節介な奴だ。
あいつだって麗香に惚れてたのに…。

「慶ちゃん、久しぶり!…寒いね」
「お、おう、久しぶりだな…
麗香、後でちょっと話があるんだ…」
麗香の今の気持ちは分からないが俺は覚悟を決めた。


end


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