第66章 対岸の火事
『リクルート情報
年齢性別不問、経験者優遇』
こんなメールが自分のスマホに届いた。
聞いたことの無い社名、高額な報酬…ただ勤務地は中東だった。
「なんだ?これ?」
明らかに怪しいメール。
俺は隣にいた斎藤に見せた。
「これってどう見てもテロ組織だよな…
こんなのに返信する奴、日本にいるのか?」
俺はテロなんて中東や欧米での事で、日本では関係ないと思っていた。
「お前はほんとに呑気だよな」
メールを見せた斎藤の顔つきが変わった。
「呑気ってなんだよ!」
俺が声を荒げると同時に、斎藤が左手を上げた。
俺達の周りにいた人達が一斉に俺を取り囲んだ。
「なっ!」
口を塞がれ、身体の自由を奪われ、近くの車に押し込まれた。
「対象確保…
アジトに戻る」
車の中で斎藤はスマホで誰かと連絡を取っている。
その横顔は俺の知っている斎藤の顔ではなかった。
冷徹な眼差しで俺を見詰めると口角を少し上げて俺に言った。
「日本はテロなんて起きない…
そんな甘い考え方してるから、こうなるんだよ
恨むならお前の生い立ちを恨むんだな」
(何言ってんだ、こいつ!
俺の生い立ちって何だよ?)
俺は斎藤の勘違いにより拉致され、最後の時を迎えようとしている。
隣には俺を拉致した斎藤がいる。
俺が総理大臣の親族だと勝手に思い込み、俺をテロ組織に売った報いだ。
…何でこんな事に…。
end