第642章 AIとお一人様
我が街に日本最高層のビルが建った。
最上階には、お約束の展望室と超高級レストランがある。
もちろん普通は有料なのだが…。
「無料招待券があるなんてラッキーだったな」
近隣住民への配慮というやつらしい。
「へぇ~これが最新のエレベーター?
普通と変わらないじゃん」
運が良かったのか?俺一人で貸し切りのような形となり、つい独り言を言ってしまった。
『ご搭乗ありがとうございます』
「へ?あ、アナウンスか?」
『いいえ、このエレベーターのAIオペレーター、エリーと申します』
エレベーターの壁面にCAのような制服姿の女性が映し出された。
「あ、あなたがエリー?」
『はい、これより最上階までご案内致します』
「ご案内って言ったって上に上がるだけじゃん」
最高層だからある程度の時間は掛かると思うが…。
『到着まで癒しの音楽などいかがですか?』
エリーは小箱を取り出した。
「何それ?」
小箱の蓋を開けると音楽が流れ出した。
『オルゴールでございます』
確かに懐かしい音色で癒される。
「へぇ~、他にも何かあるの?」
『では、癒しの景色を…』
今度は壁面全部に大自然が映し出された。
「…凄いな」
エレベーターの中で、大自然に囲まれてオルゴールを聞くなんて思いも寄らなかった。
『まもなく到着となりますので記念撮影を致します』
エリーがカメラを持って現れた。
映像の大自然をバックに映像の中のカメラで撮られるとは、不思議な気分だ。
『写真はアプリからご覧下さい』
QRコードが映し出された。
スマホで読み取り開いて見ると、ブレもボケもない綺麗な写真が出てきた。
「さすがAI、本当に自然をバックにしてるみたいだ」
『このカメラ、オートフォーカスですから♪』
ジョークも言えるようだ。
「しかし、毎回、こんな事してるのか?」
『お客様がお一人様の時に限ったサービスでございます』
「今まで何人いたんだ?」
『あなたが初めてございます』
いつもは行列が出来るくらいだから、一人なんて奇跡に近いだろう。
『ご搭乗ありがとうございました』
エリーが深々と頭を下げるとエレベーターのドアが開いた。
たくさんの客が待っていた。
これから先、エリーの出番は多分ないだろうな。
end