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千分の一話噺

第64章 感謝


「一年ぶりの温泉旅行!
今年は有給休暇も取ったし、温泉を満喫するぞ!」

毎年、夫婦二人で温泉旅行へ行くのを楽しみにせっせと働き、こつこつ貯めてきた。
しかも今年は、妻が「結婚十年目の記念に、高級な旅館に泊まりたい」と言い出し自分で予約をしてしまった。

「ほら、早く行こうぜ」
「そんなに慌てなくても温泉は逃げないわよ」

高級旅館なんて滅多に泊まれないし、すぐにでも行きたいのに、なんで女性はこうも支度に時間が掛かるのか?しかもそれを言うと怒るし…。

「いつも時間掛かるんだから、もっと前から支度しろよ」
「女にはいろいろあるの!
男には分からないわよ!」

毎回の事だが、車の中ですぐに喧嘩になってしまう。
途中、観光地を見て回ったが気まずい雰囲気のままだ。
せっかくの記念の旅行だって言うのに…。

しかし、旅館に着くとそんな雰囲気は吹き飛んだ。

「こんな高そうな旅館…大丈夫か?」
「私が選んだんだから大丈夫よ」

伝統と格式の老舗旅館。
その凜とした佇まいに圧倒される。
部屋に入ると更なる驚きがあった。
「おまえ、この部屋…?」
「ちょっと奮発しちゃった
露天風呂付きの部屋に泊まってみたいって言ってたでしょ
いつもお仕事、ご苦労さま」
妻は俺に内緒で最高の部屋を予約していたのだ。

「…ありがとう」

十年目の記念に相応しい、最高の温泉旅行になった。



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