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千分の一話噺

第626章 家


「てめぇ!ぶっ殺してやるっ!」
警官に押さえ付けられながらも叫んでいる。

田沢研二はその場で逮捕され連行された。

相手は地元の市議会議員、再開発の説明会に来ていた。
「この街の発展のために、再開発に協力下さい」
説明が終わると同時に研二はこの議員に殴り掛かった。
「ふざけるんじゃねぇ!てめぇの私利私欲のために潰されてたまるか!」
再開発の地域には研二が育った孤児院も含まれている。


研二は幼い頃に交通事故で両親と兄を亡くした。

連休中、行楽地に向かう渋滞の列に居眠り運転していた大型クレーン車が突っ込んだ。
十数台が絡み死傷者二十名の大惨事だった。
研二が乗っていた車は原型を留めないくらい潰れていたが、小さかった研二は隙間に入り込んでいて奇跡的に無傷であった。

奇跡的に助かった研二だが、引き取る親類が現れず孤児院に入ることになった。

「本当の親の記憶はほとんどない
写真もないから顔も知らない
俺にとって孤児院《ここ》のみんなが俺の家族だ!
孤児院《ここ》が帰る場所なんだ!」

それは研二の誇りでもあった。
その孤児院を再開発で失うと知って暴走した。


研二は傷害罪で服役、しかし再開発は行われなかった。
当の議員が再開発に絡む贈収賄で逮捕されたからだ。

研二の帰る場所は今もそこにある…。


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