第619章 世知辛い…
小雨降る深夜、とある地方の街道沿いのコンビニで浴衣を着て帽子とマスクで顔を隠した男が店員に訊ねた。
「ここに胡瓜はあるか?」
「すんません、生野菜は置いてないっす」
店員が謝ると男は何も買わずに立ち去った。
都会なら深夜営業や24時間営業のスーパーもあるが、田舎の小さな町では深夜に営業しているのはコンビニくらいなものだ。
「また、胡瓜男が出たらしいぞ」
「今度は駅前のコンビニだろ?誰なんだろうな?」
田舎の小さな町だから地元の人なら顔の知らない人はほとんどいない。
「雨が降ってるのに傘も差さないで来たらしいな
浴衣がびしょびしょだったって?」
「しかも、また胡瓜あるか?って聞いただけでビニール傘も買わなかったんだろ?」
『謎の胡瓜男』としてコンビニ店員の間で噂になっていた。
そこで実際に地元農家に協力してもらい胡瓜を置いてみた。
数日後、雨が降る夜中に『胡瓜男』が傘も差さずに現れた。
「ここに胡瓜はあるか?」
「はい、こちらに!」
店員が売り場に案内すると男はそこにある胡瓜を全てカゴに入れた。
「お支払は?」
店員が訊ねると男はスマホの画面を見せた。
スマホ決済で支払うと胡瓜を大事そうに抱えて帰って行った。
近くには河童伝説がある川が流れている田舎の小さな町の出来事であった。
end