第616章 夢の…
「ざけんっ!こらっ!」
「なんだとっ!てめえ!」
圭一は喧嘩の真っ最中だった。
圭一は些細なきっかけですぐに喧嘩となる。
気に食わない相手なら、肩が触れた目が合っただけで突っ掛かる。
元々、短気な性格ではあったが暴力を振るう程ではなかった。
しかし中学時代、部活で先輩の苛めに近い練習で遂にキレた。
三人の先輩をボコボコにしてしまった。
もちろん退部させられ、それ以来、誰も圭一に近寄ろうとはしなかった。
唯一声をかけ続けたのは同じ部にいた英樹だった。
「圭一、三年生も夏が過ぎれば部活には出なくなるから、戻ってこいよ
俺が頼み込んでやるから!」
「うるせえな、俺みたいな奴がいたら廃部になっちまうぞ!
お前は、高校で甲子園を目指すんだろ?
俺なんかに関わるな!」
圭一は突き放す様に言った。
「一緒に甲子園に行こうって言ったじゃないか!?
甲子園でホームラン打ってプロになるのが夢なんだろ?」
「…そんなのはもう無理に決まってるだろ!
夢はお前に託す…甲子園へ行けよ!」
圭一は英樹の前から去った。
圭一は高校にも行かず、毎日のように繁華街をうろついていた。
「くそっ!おもしろくねぇ!」
すぐに苛つき言葉を吐き捨てる。
「今日から甲子園だろ?」
「ああ、なんかすげぇ一年生が出てるらしいぜ」
すれ違う会社員がそんな話をしていた。
(ちっ、甲子園なんか…
…英樹はどうなったのかな?)
たまたま入ったラーメン屋のテレビでは高校野球をやっていた。
『ピッチャー投げた!』
圭一はテレビを背にして座った。
『三振!ゲームセット!
やりました!一年生ピッチャー佐々木英樹がノーヒットノーランを達成しました!』
圭一は思わず振り返った。
「えっ?…英樹っ!?」
そこにはマウンドで誇らしげに両手を突き上げた英樹が映っていた。
「英樹の奴、一年生なのに…
大した奴だぜ」
圭一は自分の事のように喜んだ。
end