第606章 羊のメリーさん
私は羊のメリー。
この羊牧場では最高齢の羊よ。
牧羊犬のコタロウとも仲良しだから、私がゆっくり歩いていても吠えたりしないの。
牧場名物の羊追いでも…。
「メリーさん、もう少し走ってくれないかな?
俺にも牧羊犬としての面子ってもんがあるんだからさぁ」
「分かってるわよ
少し走るから、他の羊でも誘導してなさい」
若い頃はちゃんと走ってたけど、正直もうしんどいのよ。
同期の仲間はみんなジンギスカンになっちゃったし、子供産むのもそろそろキツイのよね。
「あのメリーって羊、オーナーのお気に入りなんだって?」
「ああ、だから食肉にならずに繁殖用になったんだ
…しかしオーナーはメリーをこの先どうするんだろうな?」
「あの歳じゃあ、もう食肉としては使えないだろ?」
「そろそろ繁殖も厳しいしな…」
飼育係がそんな話をしているが、私は気にしない。
だって、こうして生きてるんだから。
羊毛はもちろんだけど、子供もたくさん産んだし、ミルクもたくさん出したわ。
私のミルクを使ったヨーグルトは乳酸菌たっぷりで大人気なんだから。
そこへオーナーのトラックがやって来た。
「オーナー、まだあのポンコツ…いや、古いトラック使ってるのか?」
「買い換えましょうと言ってはいるんだけど、オーナーのお気に入りだから…」
トラックには数頭の羊が乗っていた。
「オーナー、その羊は?」
「新種の羊だ
メリーの相手にと思ってな」
オーナーはまだメリーに子供を産ませる気でいた。
「メェ~~~!」
メリーの悲鳴に近い鳴き声が響いた。
end