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千分の一話噺

第603章 花の宿


私は仕事でとあるひなびた温泉宿に足を運んだ。

客間に案内されると…。
「遠いところ、ようこそ…
蓮茶でも飲んで寛いで下さいな」
女将がお茶をテーブルに置いた。
「はすちゃ?」
初めて聞くお茶だ。

「ベトナムとかで飲まれているお茶ですよ
緑茶に蓮の花びらや雄しべの香りを移したお茶です
蓮の花の香りというか、ふんわりとした優しい香りがするお茶なんです」
「…ベトナム?…ですか?」
確かに優しい香りで癒されるが…。
「何でベトナムのお茶を?」
女将に尋ねた。
「私がベトナムに旅行した時に作り方を教わったもので…
それと近くに蓮の花が咲く池もありますから…」
「なるほど…
アイデアとしては悪くないですね」
私の仕事は、いわゆる『再生屋』、傾きかけた店を立て直すプランナーだ。

宿の立地、建物の外観、女将や従業員の接客、温泉の状態…、一通りチェックしてからどう立て直すか考える。

都心から車で二時間半程度、週末に一泊するくらいならちょうど良い距離…。
自然に囲まれた一軒宿は隠れ家的な雰囲気はあるが…。
「ここの立地から、大型連休での連泊のお客様は考え難いので、週末に気軽に来れる宿をコンセプトに…」

接客は良くも悪くもない程度…。
「女将さんも含め従業員には今一度接客の研修を受けてもらい、より良い接客を目指して…」

問題は建物と風呂場の改修だが…。
「宿自体の大掛かりな改修は予算的に無理なので、客間と風呂場の改修を…」

後は料理と全体的に…。
「料理は出来るだけ地元の食材を使った郷土料理を…
宿の至るところに季節の花を飾って、蓮茶もお忘れなく…」



蓮の花が咲く季節になると、私はその宿へ向かう。


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