第590章 アイドル?
俺は太郎、これでもここでは人気者なんだ。
俺を目当てにくる客も多いし、今日もテレビの取材が来ている。
「この太郎君って賢いんだって?」
「人の言うことを理解出来るんだよ!」
「象って頭良いんだね」
そう、今の俺は象である。
所謂、転生というやつらしい。
事故って、その後の記憶はない。
気が付いたら象になってた。
しかし、何故か人間の時の記憶が残っていた。
本名「田所太郎」、人間を35年やっていた。
人の命なんてあっけないものだ。
階段を一歩踏み外しただけで呆気なく死んじまった。
まぁ、独り者だったから家族以外は悲しまなかっただろう。
象名『太郎』、象になって5年。
名前は偶然だ。
ただ、象に転生して1年間の記憶がない。
「太郎!誕生日おめでとう!」
突然名前を呼ばれて気付いたら、周りに象がいた。
正直びっくりした。
逃げようとしたが身体が思うように動かなかった。
目の前の長い鼻と飼育員が寄ってきて、初めて俺は人間じゃないことを知った。
身体を上手く動かせる様になれば、飼育員が言ってる事をやるのは簡単だ。
しかし、言葉は分かるが何せ象の身体だから、なかなか上手くは出来ない。
それでも普通の象よりは言われた通りに出来るので
、話題になるのは当たり前か…。
「移送準備が整いましたが大丈夫ですか?」
「太郎なら大人しく言うことを聞いてくれるよ」
ん?移送?
飼育員に引かれ檻に入れられ…。
ヘリコプターで吊り上げられた。
うっ…ヘリコプター!?
まずい…ここで暴れたら落ちる…。
けど、ヘリコプターは…。
人間時代に一度だけヘリコプターの遊覧飛行をしたことがあった。
降りた後は、言わずもがな…。
それは象になっても変わらなかった。
end