第563章 泡銭は泡と消え行く
「来い!…来い!!…来い!!!
来たぁぁぁぁぁ!当たったぜっ!!!」
競馬で万馬券を当てた。
「よし!大盤振る舞いと行こうか!」
俺はすぐに彼女が行きたいと言っていた和食の店に予約を入れた。
前から気になってはいたが、あまりにも高級な店なので行きたくても行けなかった。
「これだけ軍資金があれば楽勝だぜ」
ディナーのコースが一人十万、二人で二十万。
普通のサラリーマン風情が簡単に行ける店じゃないのだ。
当日、店のある街の駅を出ると…。
「募金お願いします!」
赤い羽根募金が待っていた。
「ふふふっ、いつもの俺なら素通りだが…」
財布から一万円札を颯爽と出して募金箱に入れた。
「ありがとうございます!」
小学生くらいの女の子が赤い羽根を付けてくれた。
「見栄張っちゃって…」
「良いんだよ…、博打で儲けた泡銭なんて、パッと使うのが江戸っ子の心意気ってやつさ」
「あんた、江戸っ子だったっけ?」
「あたぼうよ、川口の生まれでぇ」
「それ埼玉県!」
そんな掛け合いをしていたら、店の前に着いた。
「こ、これか…」
俺はその佇まいに少し怯んだ。
「さ、入りましょ」
女性は強いと思った。
店に入ると離れの座敷に案内された。
一番高いコースを予約したんだから、VIP待遇と言うやつか。
最初の料理は…。
『冬瓜の葛餡掛け』
毛筆で書かれたお品書きに和食の伝統を感じる。
さすが拘りの名店だけはある。
これは最後まで期待出来そうだ。
end