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千分の一話噺

第561章 4beatなjazzの味


馴染みの店の、馴染みの席…。
「マスター、いつもの…」
「…あいよ」
マスターは特に確認もせず、カウンターからキッチンへ姿を消した。
店内に流れるジャズが心地好い。
マスターの趣味で、いまだにアナログレコードを使っている。
マスター曰く、「デジタル音源は味がない」と言う。

「いらっしゃい」
店員の沙羅ちゃんがお冷やとおしぼりを持ってくる。
「相変わらず暇そうだね」
店内には俺以外の客はいなかった。
「昼休みはとっくに終わってるんだから、こんな時間に来るのはコウちゃんくらいなものよ」
普通の会社員じゃない俺は、わざと時間をずらして来ている。

そんな会話を交わしているとマスターがいつものやつを持ってくる。
「はい、お待ち…」
「これこれ!」
俺は運ばれて来たフライドチキンにかぶり付く。
「…コウちゃん、たまには珈琲も頼んでよ
うちはフライドチキン屋じゃないんだからさぁ」
マスターがぼやく。

そう、この店は喫茶店。
もちろん、軽食もやっているがフライドチキンはメニューには載っていない。
「良いじゃん、マスターのフライドチキンは絶品なんだから!」
所謂、裏メニューだ。
「…そろそろ表メニューに出してみたら?」
沙羅ちゃんもここのフライドチキンのファンの一人だ。
「だから、うちの売りは珈琲とジャズなんだよ!
俺の趣味で始めた店なんだから、勝手にメニューを決めるな」

そろそろマスターの機嫌が悪くなりそうなので…。
「そうそう、マスターにお土産だ」
俺がやっているリサイクルショップに、今でもたまにレコードを売りに来る客もいる。
だいたいが遺品らしく貴重な名盤が混じっている事もある。
「おぉ!これは…
…仕方ない、これからもフライドチキンを作ってやるよ」
これで暫くはフライドチキンが食べられる。


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