第543章 こだわり
念願のうどん屋を開業した。
小麦粉にこだわり、水にこだわり、塩にこだわり、打ち方にもこだわった究極の手打ちうどんの店だ。
もちろん、出汁にも醤油にもこだわっている。
メニューは冷たいザルうどんと暖かいかけうどんだけだ。
俺の打ったうどんに具なんかいらない。
なんせ俺のうどんは最高なんだから!
しかし、世の中そう上手くはいかなかった。
「何で俺のうどんが受け入れられない!?」
開店当初はそれなりに客は入っていたが、日に日に減っていき今では閑古鳥が鳴いている。
所謂、リピーター客がいないのだ。
「キツネうどんね……えっ?ないの?」
「月見うどんを……ないの?」
「天ぷらうどんで……ないの?」
何でみんなうどんを食わない。
具なんか関係ないだろ?うどん屋に来たならうどんだけを食べろ!
失意の中、俺の店に一匹の三毛猫がやって来た。
「にゃ~」
「なんだ?客のつもりか?」
俺は出汁に使っている最高の煮干しと鰹節を削って分けてやった。
「高級品なんだぞ…味わって食べろよ」
三毛猫は美味しそうに食べてどこかへ行った。
翌日、珍しく客が来た。
次の日も、その次の日も…。
日に日に客が増えていった。
俺が三毛猫にエサをあげた日が『招き猫の日』だと後で知った。
あの三毛猫は生きた招き猫だったのか?
今度来たら腹一杯食べさせてやろう。
end