第534章 ツイてる男
待ちに待った夏本番!
しかも今日は海開きだ!
俺は意気揚々と海に向かった。
始発電車で地元を出発し、幾つかの電車を乗り継ぎ、海岸に近い駅に着いた。
「暑い!」
ギラッギラの真夏な陽射しに目眩がしそうだが、海にはうってつけの天気だ。
今日はツイてるかも知れない。
「お兄さん、お兄さん!
うちの海の家でこのクーポンを使えば、トロピカルジュースが貰えるよ!」
海の家の客引きがクーポン券を配っていた。
「ラッキー!」
これは早々にツイている。
早速、海岸に向かう。
海開きのイベントには間に合わなかったが、海岸には色とりどりのパラソルが花を咲かせ、キラッキラの水着美女がわんさかいる。
「おお~!これぞ夏の醍醐味!」
クーポン券の海の家を探して、水着に着替え、トロピカルジュースを貰い、パラソルを借りる。
砂浜にパラソルを立て、トロピカルジュースを飲みながら一息入れる。
「美味い!」
やっぱり今日の俺はツイている。
「よし!泳ぐぞ!」
泳ぎには自信がある。
学生時代、伊達に水泳部に所属していた訳じゃない。
クラスメートからは、『北関東の飛び魚』と呼ばれていたくらいだ。
今でも市民プールで泳いでいる。
しかし、そんな俺が溺れた。
「うわっ!」
足をつったのかと思ったが…。
(何だ!?)
俺が海の中で見たのは、髪の長い女性が足を掴んで深みに引き摺り込もうとしている。
俺は足掻いて足掻いて、その女性の手を振り払った。
命からがら浜に上がると海の家に駆け込んだ。
「幽霊が出た!」
「はあ?お客さん、夢でも見ましたか?
こんな真っ昼間から幽霊が出る訳ないでしょ?
海開きの日に縁起でもない…」
店員には相手にされなかった。
その日から事ある毎にその幽霊が現れる。
俺は憑かれしまった様だ。
end