第53章 ホワイトクリスマス
2115年12月24日、今日も外は深々と雪が降り積もっている。
2092年、第三次世界大戦末期。
敗戦が濃厚となったいくつかの国は指揮系統が乱れ、暴走した軍は核を…。
いくつもの都市が消滅し、巻き上がった塵と放射能が地球を覆った。
生き残った人類は地下シェルターで暮らす事を余儀なくされ、地上に出るには宇宙服並の防護服を着なければならなかった。
「大昔は今日をクリスマスイブと言って恋人達には特別な日だったらしいね
雪が降ると、ホワイトクリスマスだって盛り上がったらしいよ」
俺は彼女の手を引いて、階段を上った。
「ねぇ、どこ行くの?」
「地上だよ
こんな息苦しい穴蔵は嫌だって言ってただろ?」
「でも、防護服着ないと死んじゃうよ」
「君がいない穴蔵にいるくらいなら…」
「…でも、あなたには生きていて欲しい」
俺は返事が出来なかった。
もう覚悟は出来ている。
階段を上りきると防護扉が現れた。
幾重にも続く扉の先は、今では近づく者は誰もいない地上への出入口だ。
「この扉の向こうが地上だ
今は雪が降っているらしい…」
「本当に良いの?
私と一緒で…」
「君は俺とじゃ嫌かい?」
彼女は首を横に降った。
彼女の寿命はもう尽きかけている。
だから最後の数日でも彼女と地上で過ごしたいと思った。
俺は彼女と力を合わせて最後の扉を開けた。
外は一面の銀世界…。
この世の景色とは思えない程、美しかった。
「ホワイトクリスマスだね…」
俺と彼女しかいない地上世界。
俺達の足跡だけが雪に残った。
end