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千分の一話噺

第520章 約束の紫陽花


遠い昔、ある国に露姫と呼ばれるそれは美しい姫様がいた。
その美しさは、隣国からの縁談話しが途切れる事はなく、国民からも絶大な人気があった。

「露姫、そろそろ何処かへ嫁ぐ事になるぞ」
しかし、世は戦国時代に突入、数多の国々が天下統一を目指して争い出した。
男子は戦力であり跡取りでもあり、女子は政略結婚で国を助ける役割となる。
「父上、私は嫁には参りません
跡継ぎの新之助は病弱です
いざと言うときは私に婿養子を取る事となるのでは?」
「お前が男子だったらと本当に思うぞ…
しかしな、今どこかに攻め込まれたら我々は滅んでしまうのだ
強国の後ろ楯は必要だ」
父としては苦渋の決断であった。

「新之助、約束は守れそうもないわ」
病床の弟、新之助に頭を下げた。
「姉上…、どちらにしろ私はもう長くありません
私の事はお気になさらず、幸せになって下さい…」
露姫は涙が溢れ顔を上げる事が出来なかった。

露姫の縁組みはすぐに決まり嫁ぐ事になった。
「…では父上、行って参ります」
「うむ、頼んだぞ」
嫁ぎ先は隣国でも一、二の強国。
六月のある日、政略結婚と分かっていても露姫は快く嫁いで行った。

(新之助、今年もここの紫陽花が綺麗に咲いてるわ
あなたに見せると約束した紫陽花が…)

最後のお参りと立ち寄った地元のお寺には薄紫色の紫陽花が咲き誇っている。


世は戦国時代、露姫の故郷も嫁ぎ先も時代の波に飲まれ歴史上から姿を消した。
…が、約束の紫陽花は何百年先の世でも咲き誇っている。


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