第503章 お彼岸
もうすぐ春のお彼岸、ああ…またやってる。
うちの両親は母が東京出身、父が大阪出身だからいつも桜餅でもめる。
「あかん!こないなどら焼きみたいな桜餅は桜餅やない!」
「私はこれが良いのっ!
あの牡丹餅をひっくり返したような桜餅なんてイヤよ!」
「そうや!恭子はどっちが良い!?」
そこで私に振られても…。
「私はマシュマロが好きだけど…
そんなにもめるならお萩だけで良いじゃん」
「「春は牡丹餅!」」
二人揃って突っ込まれた。
いつもの事だけど、負けると分かっていても父は言いたいらしい。
とはいえ、何だかんだ言っても母は毎度両方の桜餅を買ってきている。
まあ、母方のお墓参りだから父の言い分が通る訳はないのだけど…。
そういえば、父方のお墓参りには行ったことがない。
「ねぇ、秋は父さんの方のお墓参りしない?」
この一言で両親は何故か一気に暗くなった。
「えっ?何?私なんかマズい事言った?」
「…恭子には言ってなかったけど、父さんは…」
「俺が話す…」
父が珍しく真面目な顔で話し出した。
「まだ俺が実家にいた頃や…
仕事の関係で大阪に来ていた母さんと出会った
俺んちは店やっててな、母さんとの交際は反対されたんや
だから、勘当同然で家を飛び出した…
今更、帰られへんわ…」
知らなかった。
二人はそんなドラマチックな出会いだったんだ。
「…でも、何で反対されたの?」
「父さんの実家は地元では有名な老舗和菓子屋なのよ
東京で洋菓子屋の私を嫁には出来ないって…」
母は苦笑いだった。
だから父は桜餅にうるさいんだ。
何となく納得した。
でも、いつか父が実家に帰れる日が来ると良いな。
end