第18章 天の邪鬼のあかぎれ
ぎょっとしたが、声をかける間もなく二人は星乃の視界から遠ざかって行ってしまった。
いったいなんだったのだろう。
わけがわからないまま邸内に脚を踏み入れる。様子を見に庭先を覗き込んだ矢先、星乃は驚愕した。これは、稽古じゃない。──乱闘だ。
猛り狂う実弥を複数の隊士たちが懸命に制止している。よく眺めると、実弥の激しい怒りの矛先は竈門炭治郎に向いていた。
星乃は慌てて一升瓶をその場に置き駆け出した。
「実弥···っ、なにをしているの······!?」
星乃の声が庭一面にこだまする。すると、ピタリ。実弥の動きが嘘のように停止した。
((( と、止まった!!! )))
乱闘騒ぎに巻き込まれた隊士たち全員の、心の叫び声だった。
実弥と炭治郎が揉め出したのは、稽古に励んでいる最中のこと。隊士たちのほとんどは各々やるべきことに集中していたため、なぜ乱闘にまで発展したのかわけがわからないままでいた。
導火線に火がついた実弥はもう誰にも止められない。頼みの綱があるとすればお館様の耀哉だが、この場所では無理がある。ならば捨て身覚悟で止めに入ってゆくしかない。
そんな隊士たちの決意虚しく、飛び込む、巻き込まれる。飛び付く、返り討ちにあう。
死に物狂いで実弥を押さえにかかっても、乱闘は一層ひどくなるばかり。
皆自棄になっていた。
このままでは乱闘死もあり得るぞ。そんな絶望が過った矢先、舞い込んだ一筋の光が星乃である。
後光が見える···! 皆が双眸に涙を浮かべて星乃を向いた。
しかし酷い、と星乃は絶句した。
実弥も負傷しているが、その周辺にいる隊士たちの怪我の具合が尋常ではない。気絶している者たちもちらほら見える。
「これはいったい何事なの······!?」
実弥は小さな舌打ちをこぼし、腕に巻き付く隊士をぶんと振り払った。
「実弥、なにがあったの? 稽古をしていたんじゃないの?」
「······一旦休憩だァ」
「実弥······っ」
星乃の横を通り過ぎ、屋敷の中へと引っ込んでしまった実弥。すぐにでも追いかけて問いただしたいところだが、怪我を負っている隊士たちをこのまま見過ごすことはできない。