第7章 揺れるびいどろ、恋ノ花模様 * 織田信長
「信さん、どうしました…?」
林檎飴を買い、美依に手渡す。
美依はそれを受け取り一口かじると、不安そうに尋ねてきた。
俺は特に美依を不安にする要素など見当たらず、逆に美依に尋ね返す。
「どうしたとは?」
「眉間にシワ、寄ってますよ」
「……」
(普通にしているつもりが、表に出ていたか)
俺の苛立ちは相当らしい。
こうして感情が表に出てしまうとは。
だが───………
俺が何故こう思っているかも、美依は気づいていない。
聡い所もあるが、自分に関しては鈍いから。
複数の男に好意の目を向けられているなど…
美依は気づきもしないのだろう。
ならば、少し解らせねばなるまい。
どういう状況にあるのかを。
「美依…こちらへ来い」
「あっ……」
俺は再度美依の手を引き、歩き出した。
そのまま人混みを掻き分け、人気のない神社の裏へと向かう。
美依は林檎飴を片手に持ちながら、半歩後ろから大人しく付いてきた。
時折、美依から名前を呼ばれたような気がしたけれど…
それには答えず、無言で移動する。
────俺は、怒っているのか?
美依に対して怒りが沸いた訳では無い。
美依を見る、男達には苛立った。
でも、純粋な『怒り』とはまた違う。
どちらかと言えば、もっとえげつなくて…
美依を独占したいと言う気持ちが強い。
『独占欲』『支配欲』
そんな感情に『焦れ』が加わって…
少しだけ醜く、みっともない。
そんな複雑な思いは、あまり経験したことがないものだ。
それでも、名前くらいは解る。
この感情はきっと───………
「信さ…信長、様……?」
ちょうど神社の真裏。
誰一人として居ない、薄暗いその場所で、美依は俺の名前を呼んだ。
俺はそこで足を止め、美依の方に向き直る。
そして、神社の壁際に美依を立たせると、俺は美依を囲うようにして壁に手を付き、閉じ込めた。
すると、美依は腕の中から俺を見上げ、その純な眼差しを向けてくるので…
俺はふっとくぐもった笑みを零し、そのまま片手で美依の顎を掬い上げた。