第7章 トラ男とパン女の攻防戦
昨夜から喧嘩腰のムギだけど、ローにはしっかり感謝をしている。
本当なら、今頃恋人のフリを解消し、元の良好な友人関係に戻れていたはずなのに、なぜこんな事態になってしまったのか。
それはさておき、今までローに尽力してもらったことに嘘はなく、誠意を示すためにもお礼は必要だ。
考えた挙句、ムギはお米券を用意した。
ローは米が好きだし、利用しやすいお米券にしたのはベストな選択だったと思う。
そんな折、ローから「話がしたい」とメールが来た。
あまり好ましい内容の話じゃないんだろうな……と想像しながらも、ちょうどいいやと思って了承の返事をする。
「ギンさん、小麦粉とバターの補充を手伝ってもらえますか?」
「ああ、俺ひとりで行きますよ。」
「いえ、ちょっと多いんで二人で行きましょう。」
ギンが働くようになって良かったことのひとつは、こういう時にパンを焼く職人の手を煩わせずに済むところ。
多少の荷運びであればムギだけで運べても、数十キロの小麦粉やバターを大量に運ぶとなると、ムギの手だけでは足りなくなる。
「わかりました。」
ギンは強面な顔に反して礼儀正しく素直だ。
約半年ほどとはいえ、先輩であるムギの指示に異を唱えない。
来客の切れ目を狙って倉庫に赴き、重たい小麦粉袋を持ち上げる。
あとは砂糖と塩の袋も持っていかなくてはならず、腹筋に力を入れて小麦粉を担いだ。
「よいしょっと……。お? おっとっと……!」
勢いをつけすぎたせいか、重心が後ろに傾いてバランスを崩す。
小麦粉袋を抱えたまま尻もちをついたら、けっこう痛い。
しかし、ムギが無様に尻もちをつくことはなく、逞しい腕一本が背中を支えた。
「ムギさん、大丈夫ですか?」
「あ……、すみません。」
体勢を整えて振り向くと、すでに小麦粉袋を二つも片腕で担いだギンが平気な顔でムギを助けてくれていた。
「ギンさん……、力持ちなんですね……。」
「こんなもん、普通ですよ。そっちの袋も俺が持つんで、ムギさんは砂糖と塩をお願いします。」
「え、はい。」
砂糖と塩は比較的軽い。
ちなみに、小麦粉袋は30キロもある。
確かに作業はギンひとりでどうにかなった。