第2章 美しい嘘つき
翌日
葵が女子生徒たちに何やら言い寄られている。それは実に聞くに耐えないものであった。
「天月さん助けて。と言いたげな視線を無視して教室を出た。
廊下を歩いていると後方から青髪の男性がやってくる。
「……っ」
ちらりと後ろを確認した時に目が合ってしまい、即座に正面を向く。心の中で、声をかけてくれるなよ。と唱えるが叶う事もなく渋々足を止めて後ろの彼へと顔を向けた。
「はい、なんでしょうか」
「ガイを見なかったか」
「……ガイ?」
聞き返すと苛立たしげに舌打ちが返ってきて、思わずこちらも彼を睨み付ける。
「黒髪の赤い目の奴だ。お前も始めに合っただろう?言いあっていたはずだが……」
「見てません」
「そうか」
立ち去ろうとした彼の腕を掴む。
「もしかしたらわかるかもしれません」
「なに?」
天月は斜め上を見てから告げた。
「4階のカフェテリアにいると思いますよ」
疑いの目で見てくるが困ったように笑う事しか出来ない。
頭を下げ立ち去りながら苦笑いを零す。
早く部屋へ戻ろうと足を速め、曲がり角を曲がった途端誰かとぶつかる。
「キャッ!」
小さな悲鳴と同時に手を伸ばす。
「あ、ありがとう。あなたは転入してきた……」
「相良天月と申します」
余所行きの笑顔を浮かべて目の前の彼女を見た。
「あら、そうなのね。私は、シェリー・レビアよろしくね」
「はい、宜しくお願いします」
「ええ」
シェリーといったん別れ歩く。ふと窓際に立ち、ゆったりと流れ込むそよ風を浴びながら遠くを見つめていると、下の方で声が聞こえてきた。
その声に目を向けると生徒たちが楽しそうに話ししていて、その微笑ましさに薄い笑みをこぼした。
一限目の時のリオの言葉を思い出し苦々しく下唇を噛む。
リオが言うには、どうやらこの世界では瞳の色で国が分かれているらしい。黒目の人がいないという事は、もともとこの世界に存在しないのか、または数少ない人種なのか。出来れば後者であってほしいが、完全に前者な事に違いない。そうでなければ、学院長が葵の瞳の色をわざわざ隠す必要がないからである。
「…………はあ」
一度目を閉じて一呼吸置いてから目を開けた。
「ほんと、めんどくせえな」
さも鬱陶しげに窓に背を向ける。まるで楽しげな声から逃げるように。