第37章 これだから恋愛初心者は
「おっ真ちゃん、背中の傷良くなったみてぇじゃん。」
高尾の言っている“背中の傷”とは合宿初日の夜に花子がつけた爪の跡のことである。
自分では全く気づかなかったが、次の日更衣室で着替えているときに高尾に指摘され、やっとその傷の存在を知った。
そのときの高尾の顔と言ったら腹だたしいほどにニヤニヤと笑っていて、思い出すだけでもイライラしてしまう。
「んでなんだっけ?デートの場所どこにするか?」
今日のこの練習をもって合宿は終わり明日は久しぶりのオフ。以前花子と約束した通り、デートをすることになっている・・・・・のだが。
「んなの山田に直接聞けばいーだろ。」
「聞けないからオマエに聞いているのだよ!」
はぁーと大きくため息をつく。それが出来ないから困っているのだ。
花子の行きたい場所なんて分からないし、ましてやアイツの好きな物なんてアイスとマンガくらいしか思い浮かばなかった。
世の高校生はどんなデートをしているのかオレにはさっぱり想像できず、癪に障るが藁にもすがる思いで高尾に話を持ちかけたがこの様だ。
「山田に直接聞けないんじゃ、黄瀬くんにでも相談してみろよ。モデルくんは良いお店とかいっぱい知ってそうじゃん。」
「却下」
「そんなに黄瀬くんが嫌かよ?」
「嫌とかそういう問題じゃないのだよ。あのチャラチャラしてるヤツの情報など信用できん。それにバカにされるのが目に見えてる。」
「ったくウダウダ言ってんなら直接山田に聞けよなぁ。そんでちゃんとプラン考えてやれよ?アイツ結構楽しみにしてたし、それにこれが最後のデートなんだろ?」
「あぁ。」
そう明日は、初デートにして最後のデートなのだ。いや最後のデートと言うと別れるみたいな感じになってしまうが、これはそういう意味ではない。
11月から始まるウィンターカップ予選に向けてここから休みなく部活があり、予選が終わればすぐに本戦がやってくる。
赤司との勝負が終わるまで1日足りとも遊んでいる暇などない。だから明日はウィンターカップ前の最後のデートになるのだ。
「クソっ・・・・・っ、」
オレはもう一度大きなため息を吐き、カバンから携帯電話を取り出した。