第29章 また会えて嬉しいよ
「くっそー、かっこ悪ぃな、オレ。」
熱中症なんてなっている場合じゃない。
こんなんじゃ緑間の相棒が務まるわけない。
今この瞬間、アイツはオレよりも努力をしている。そう思えば思うほど、焦りと悔しさが入り乱れた。
先輩たちは、1年のくせに練習についてこれるだけ大したものだと褒めてくれたが、やはり緑間よりも劣っている自分が、こんなところで休んでいるなんて情けないのだ。
“1分でも1本でもアイツより多く練習する”
自分で自分に課した、課題だ。
それだって足りないくらいだと毎日の練習で現実を突きつけられる。
「あー練習してぇー、」
思いの丈を叫んでみれば、焦ってザワザワしていた気持ちが落ち着きを取り戻し始めた。
・・・それにしても山田、遅くねぇか?
まさか、ぶっ倒れたか?
携帯で時間を確認すると、山田が水道に向かってから15分が経っていた。流石に遅い、オレは水道へと走って向かった。
水道が見えてくると、その先に山田に迫る1人の男がいた。
「おいっ、何してやがるっ!」
急いで山田からその男を引離し、間に入る。背中で山田を隠すと、少しだけ震えた手がオレの服をギュっと掴んでいた。
「大したことはしていない。」
顔を確認するとそこにいたのは、山田と真ちゃんの幼なじみの赤司だった。
「会えて良かったよ、花子。」
「おい、待てよ」
涼しい顔して去ろうとする赤司を引き止めようとしたが、彼にオレの声は聞こえていないのか振り返ることもなくどこかへ行ってしまった。
「山田、大丈夫か?」
『あ、ごめん。全然大丈夫、』
「には、見えねぇけどな。ケガしてねぇか?」
大丈夫、なんて俯いたまま言うワードじゃねぇだろと言いたかったが、その言葉たちを飲み込んだ。
そのあと2人で体育館に戻ると、山田は何事もなかったかのようにボールを磨きだした。
「なぁ、山田、」
『ん?』
「オマエら3人て、仲良いんじゃねぇの?」
山田はオレの問いかけに、ボールを磨きながら答えた。オレの知らない真ちゃんと山田の中学時代の話が幕を開ける。
(『昔はね』)