第28章 すぐ終わらせるって言っただろ?
「帰るぞ、花子。」
『あれ?早くない?』
「すぐ終わらせるって言っただろ?」
「おい、緑間!もう一本だ。」
「バカめ、何度やっても同じなのだよ。」
「この調子だと、緑間くんの圧勝ですね。」
結果はオレの10勝。
合宿で会ったときに比べたら少しはマシになっていたが、それでもまだまだだ。
「予選、ガッカリさせるなよ。」
『またね、』
諦め悪くわーわーと騒いでいる火神を背中に、オレと花子は帰路に着いた。
「黒子と何の話をしていたんだ?」
『赤司のこと。』
なんとなくそんな気はしていたが、花子の顔色を見ると落ち込んでいたり苦しんでいるような負の感情は感じられず、そこでこの話は終わりにした。
2人、肩を並べて歩く。
手でも繋ごうかな、そんなことを考えたときだった。今度は花子が話し出した。
『そういえば、真ちゃんさ、別れ際鉄平さんになんて言われたの?』
「“花子を頼むな”と言われたのだよ。」
今になってみれば、それもおかしな話である。
木吉さんが花子を妹のように可愛がってくれているのは知っていたが、オレと花子の方が付き合いは断然長い。
木吉さんによろしく頼まれる筋合いなどどこにもないのだ。建前だと分かっていても、心の奥底では少しイラッとした。
それに加え、つい癖で頭を撫でるなんて誰にでもすることなのだろうか、と変に木吉さんを勘ぐってしまってもいた。
『頼みますよ、真ちゃんっ』
それでもニコニコと笑いながら両手を顔の前で合わせる可愛い花子を見たら、今までの黒い感情なんて一瞬でどうでもよくなってしまうのだった。
・・男って、単純だな。いや、オレが単純なのか?
そんなことを思いながら花子の手を握った。
(「来週からの山合宿終わったらさ、」)
(『ん?』)
(「・・どこか行かないか?」)
(『それってデートってこと?』)
(「・・・。」)
(『やったーー!』)