第10章 笠松幸男
「あー!もう!そんな事言うんじゃねえよ!
また手出したくなるだろうが!」
「だから、いいですよって言ってるのに」
くすくすとからかうように笑うさやに
どうしようもなくガシガシと頭をかく笠松
触れないと言ったからには
今更触れられる訳がない
(後でこっそり抜くしかねぇなコレ…)
からかってくるさやのせいで
一向に収まる気配のないそれを隠す様に
さやに背を向け、照明を消した
「明日も早ぇしもう寝るぞ」
「じゃあこっち向いて、抱き締めてください」
「はあ!?今は無理だ!」
「わかってます。気にしませんから
お願い、笠松さん」
そっと笠松の背中に触れれば
渋々だかさやの方に向き直し、ぎゅっと抱き締めた
さやの太ももに硬いそれが当たる
笠松はバレてたのが恥ずかしいのか
当たってしまう事が恥ずかしいのか
顔を真っ赤にしながら黙り込む
「ありがとうございます」
「………。」
「笠松さんの腕の中落ち着くのに
ドキドキしてなんだかこそばゆいです」
「っ……」
「笠松さんは?何にも思わないですか?」
「いいからっ!もう寝ろ本当に!」
(ドキドキしてるに決まってんだろうが!
こんな近くにさやがいて
さやの甘い匂いが腕の中からして
何とも思わない訳がねえ!)
どくんどくんと自分の心臓が高鳴っている
寝にくくないように優しく包み込んで
静かになったさやの息遣いを感じた
穏やかになって行く吐息が寝息に変わり始めて
そっとさやの顔を覗いてみる
大きな目が伏せられて
小さい頭が笠松の腕にちょこんと乗っていた
いつもより緩まった表情が無垢な乙女のようで
やっぱりコイツをいつでも甘やかして
ずっとこんな風に幸せそうに眠らしてやりたい
改めてそう思った
さやの一定のリズムとぬくもりに誘われて
笠松はゆっくりと目を閉じた