第13章 破面編(前編)
翌日。昨日の出来事に文句のひとつでもぶつけようと恐らくあの状況を作り上げたであろう張本人の場所へ今度こそ向かう。その足取りは酷く重く感じた。自分が想像しているよりもずっと、海燕の存在は大きく未だ棘の様にジクジクと心臓を穿っている気さえする。なにより、命を弄ばれているようで悔しかった。
「はぁ…あんなに会いたかったのに…ん?」
人の気配を感じて床に落としていた視線を上げる。前方からは見た事が無い黒色の髪をした少年のような男が機嫌良さげに歩いていた。彼は従属官だろうか。それともまだ会えていないグリムジョーなのか。十刃も数字を隠している者が多く存外判断が出来ない。
まじまじと見ていたせいか、向こうもこちらに気付いたらしい。彼はスタスタとゆうりの元へ歩みを進める。
「あ〜、お姉さん死神でしょ。もしかして、ウワサの藍染様のお気に入りってやつ?」
「貴方は…?」
「ボクはルピ・アンテノール。十刃だよ。」
そういう彼は大きく開いた腰元の衣服をグイッと下げ更に肌を晒す。そこには確かに数字の6が刻まれていた。しかしおかしい。以前十刃の名前を聞いた時に彼の名前は無かった筈だ。確か顔を合わせていない十刃の名前は…。
「…グリムジョーは死んだの?」
「アイツなら残念だけどまだ死んでないよ。片腕を焼かれて二度と元に戻らなくなったから十刃落ちしたけど。馬鹿だよねェ、無断出撃して東仙に腕落とされてるんだから。」
「なるほどね…。」
殺したのではなく、腕を落としただけなのなら多分藍染はグリムジョーをまだ"使う"気なのだろう。腕が無くなった程度なら私は直ぐに治せてしまう。それに多分このルピと名乗った少年、先日集まった十刃の中でもそこまで霊圧は高くない。護廷十三隊と同じように、破面にとって十刃になる事が目指す先だとしたらおそらく藍染は、東仙の忠誠心も彼の心も弄んでいる。
それを察するに時間は掛から無かった。彼女の憐れむような表情がグリムジョーではなく己に向けられるものだと気づいたアンテノールは不快そうに顔を顰める。
「何その顔。何か言いたいわけ?」
「いいえ。私は染谷ゆうり。よろしくねルピ。」
「…別に名前なんて聞いてないけど。アンタは何処に向かってんの?面白そうだからついて行ってあげる。」
「ギンに会いに行こうと思ってたの。」
