第29章 一本
「もうっ!一本取るまでに体力取られちゃいます」
濡れた唇で、涙目で怒るアヤにまたしても唆られ口づける。
(キリがないな)
「ちょっ、信長様!」
貴様は必死だろうが、俺は楽しんでいる。
そう、かなり楽しんでいる。
今朝も起き抜けから、丸めた紙で攻撃をしてきた。
これも、怪我をしないための道具らしい。
朝餉の途中も、書簡に目を通している時も、歩いている時も、四六時中俺のことを考えて、その隙を探して狙って来る。
アヤが俺を狙っている。
そう考えただけでゾクゾクと身震いがしてくる。
狙って来る度に、口づけて応戦すると、すぐ力が抜けて戦力を喪失する。愛おしくて仕方がない。
「今から天主に戻るところだ。どうせなら口づけの続きをしても良いぞ」
唇を離し、からかうように囁くと、アヤはまたその眉を釣り上げて俺を睨み機嫌を悪くする。
「信長様のイジワル、嫌い」
貴様が投げかける言葉、全てが俺の心をくすぐる。
「信長様には、弱点は無いんですか?」
どんな時も一生懸命なアヤ。
俺の弱点は貴様だ。
だが貴様は、一生気づかんのだろうな。
「ふっ、よく考えるんだな」
貴様を守れるなら卑怯で構わん。
暫くはこの駆け引きを楽しませてくれ。