君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第24章 tempestoso…
ホール内の掃除を塚ちゃんに任せ、俺は厨房に入った。
コース料理のメインでもある、地元の海鮮をふんだんに使った鍋の最後の仕上げをするためだ。
とは言っても、必要な野菜は午前中に全てカット済みだから、後は漁師のおっちゃんから直接仕入れた魚を捌いて鍋に盛るだけだから、大した作業でもない。
後は…、予約時間に合わせて用意すれば良いか…
それにもうちょっとしたら他のバイト君達も出勤して来るし…
「塚ちゃん、俺ちょっと出て来ても良い?」
「良いですけど…、どこへ?」
「ちょっとな。時間までには戻るから…」
「分かりました。後は任せて下さい!」
モップを手に、満面の笑みで敬礼のポーズを取る塚ちゃん。
ちょっと不安は残るけど、まあ大丈夫だろう(笑)
「じゃあ、頼むな…」
俺は留守番を塚ちゃんに任せ店を出ると、愛車(自転車だけど…)に跨った。
向かった先は、漁を終えた漁船が停泊する漁港で…
俺はおっちゃんの顔を見つけると、駆け寄ってその肩を叩いた。
「よう、来たか(笑)」
おっちゃんは豪快に笑うと、軽自動車のハッチバックを開け、大きめのタックルボックスを取り出し、地面に広げた。
「うわぁ、すげぇ…。これ全部おっちゃんが?」
「あったりめぇよ(笑) 」
自慢気に言って、おっちゃんがボックスから取り出したのは、本物そっくりの形と色をしたルアーで…
おっちゃんはそれを俺に向かって差し出すと、
「こいつぁ、俺の一番の自信作だけど、おめぇにやるよ」
そう言って俺の手の上にポンと乗せた。
「マジで? 良いの?」
「おう。なんなら今からでもソイツで試してみるか?」
前から釣りには興味があった。
だからおっちゃんの誘いは凄く嬉しいんだけど…
「今日は無理だよ。予約入ってるし…。ほら、何とかって言う会社の親睦会?らしくてさ…」
「ああ、それなら竜也んとこの会社だろ?」
ハッキリとは覚えてないけど、確か代表者の名前が“竜也”だったような気が…