第26章 翡翠の誘惑
だからリヴァイは、こう告げるだけにとどめた。
「これから気をつければ、それでいい。ただこれだけはよく頭に入れておけ。二人きりも危ねぇが、いつも一対一とは限らねぇんだ。集団で襲ってくることもあるからな」
真剣に身を案じて意見してくれるリヴァイに、マヤは感謝をする。
「わかりました」
……兵長にもレイさんにも同じようなことを言われて…、本当に気をつけよう。
そして親切に注意をしてくれるなんて、ありがたいこと。
そういう風に内心で考えをめぐらせていたマヤの顔は真剣なあまり、少しかたくなっている。
リヴァイはマヤの緊張を解こうと、少し優しい声を出した。
「さっきの話に戻るが… レイモンド卿が俺やエルヴィンにタメ口をききやがるのは、仲がいいからなんかじゃねぇ。単にあいつが、そういう態度のやつなだけだ」
「あっ!」
マヤの顔がぱっと輝き、少しこわばっていた顔の筋肉の硬直が解けた。
「ペトラがね、レイさんは生まれたときから、えらそうにしゃべってるんだって言うんです。一番上の大貴族の息子だから」
「あぁ、そうだな。それが正解だ。レイモンド卿の態度やタメ口は生まれついての身分がそうさせるんだろうよ」
「そうですね…。カインさんも団長に対して、結構態度が大きかったですものね」
「そうだな。いけ好かねぇキザ野郎のくせにな」
「あはっ。兵長はキザ野郎なんですね!」
「……は?」
唐突にキザ野郎だとマヤに笑いながら告げられて、リヴァイは意味がわからない。
「あっ、ごめんなさい。兵長がキザって意味じゃないです。カインさんのことをキザ野郎って呼ぶってこと。あの… ペトラとオルオはね、“パパ野郎” って呼ぶんです。あの二人、顔を合わせたら言い争いばかりしているけど、やっぱり気が合うと思いません?」
「あぁ、そうだな」
リヴァイは紅茶で喉をうるおしてから、少しだけ遠い目をした。
「俺があいつらを班員に選んだのも、それが理由だ」