第30章 映る
そんなマヤたちのささやき会話をよそに、ミケはしばらくのあいだ集中して鼻を蠢かして考えていたが、カッと目を見開いた。
「右、三粒」
「フン!」
老婆は面白くなさそうに鼻を鳴らして、皺だらけの右のこぶしをゆっくりとひらいた。そこには小さな黒胡麻が三粒。
「時間がかかりすぎだが、まぁいいだろう。入んな」
老婆の言葉を受けて、ミケはジョニーとダニエルを背負っているタゾロとギータに声をかけた。
「タゾロ、ギータ。一緒に来てくれ」
「「了解です」」
こうしてミケを先頭にジョニーとダニエルを背負ったタゾロとギータ、そのあとからリヴァイ、リヴァイ班の四人、最後にマヤが丸太小屋に入っていった。
比較的大きな立派な丸太小屋ではあるが、さすがに調査兵が十一人となると狭く感じる。
「あぁ、本当に急に押しかけて病人を診ろだの、この大人数だし一体なんなんだろうね!」
老婆はぶりぶりと怒りながら、調査兵に指示を出す。
「毒ぶゆにやられた子はこっちの部屋に運びな。女の子がいるね? 二人かい…? あんたらは湯を沸かせ。水は裏庭に井戸があるから血の匂いがする坊主とあと数人でせっせと汲んでこい。それから…、どうせ今夜は泊まりだろ? 二階の部屋は蜘蛛の巣だらけだ。そこのあんた」
老婆はリヴァイの方を向いた。
「ミケに案内してもらって掃除しとくれ」
「チッ…」
どうして一体こんな初対面のえらそうな老婆に、あごで使われないといけないのかとリヴァイは思ったが、急病人の二人を今から診てもらわないといけないのと、命令された内容が得意の掃除であることから反論はせずに軽く舌打ちするだけにとどめた。
「ではちょいと診てやろうでないの。さぁみんな、あたしの言うとおりにするんだよ!」
その一言を皮切りにタゾロとギータはジョニーとダニエルを一階の小部屋に運び、マヤとペトラは台所に向かい、オルオとエルドとグンタは外の井戸へ、ミケとリヴァイが階段を上って二階へ掃除をしにいった。