第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「明日は壁外調査だし、ぐっすり眠るのが一番かなって。恋の行方が気になる恋愛小説や、ドキドキハラハラする冒険小説や推理小説は駄目でしょう? だったら気持ちが軽くなるような優しい詩を読みたいなぁと思ったんです。そこで見つけたのがこれ!」
リヴァイの顔の前に差し出していた詩集を自身の胸元に戻して、愛おしそうに見つめるマヤ。
「ふわりだなんて可愛い名前、青空に浮かんでいる雲みたいなもこもこした文字。気になって中を見たら “ふわりと飛んでけ” って。もうこれだ!って思っちゃいました」
「それで気に入って一人で朗読していたと」
「声に出ていました…?」
「あぁ」
……やだ、恥ずかしい…!
マヤは顔を少し赤くして黙ってしまう。その横顔を至近距離で見ていたリヴァイは、透明感のある白い肌の内側から薄紅色に染まる様子に胸が苦しくなってくる。
「マヤ…」
その低い声はどこか怒っているような、不機嫌な苛立ちにも近いものが感じられてマヤは戸惑ってしまう。
「ハンジの薬を飲みたいなんて本気か…?」
「あっ…」
……ハンジさん、兵長に言っちゃったの…?
詩の朗読を聞かれてしまったことなんかより、もっと何倍も恥ずかしい。なぜならマヤがハンジの治験に協力すると言った薬は、自分の気持ちに素直になってしまう恋の応援薬なのだ。
その恋の相手に薬のことを知られてしまうなんて。
マヤはもともと赤くなっていた頬がもっと濃くなった。
「それは…」
もうこの場から逃げ出したい。今にもふれそうな距離に座っているリヴァイの身体の熱が伝わってきそうで怖い。なぜならリヴァイの熱を感じるということはマヤ自身の熱と、ドキドキと早鐘のように打つ鼓動を知られてしまうからだ。
適当な何か言い逃れをしようかと思ったときに、ハンジの声が聞こえた気がした。
“そうやって気持ちを伝えずにいたら、後悔するのはマヤなんだよ?”
……そうだわ、逃げちゃ駄目だ。
せっかくあの日、夕陽の丘で想いが通じ合ったのに。あれから一秒ごとに想いは増していくばかりでどうしようもないのに。
明日は壁外調査、何が起こるかわからないのは身をもって経験している。
今夜こそは伝えないと駄目なんだ。
「……兵長に私の想いを伝えたいからです…」