第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「あぁ、そうだよ… 自分の気持ち。前にここで二人になったときに、自分の気持ちがわからないと言って泣きそうになっていたマヤを知っているからね。そして壁外調査のあの夜、昏睡状態のマヤを見守る兵長も知っている。二人が自分の想いを大事にして、つきあうって形になって、私は嬉しい」
「……ありがとうございます…」
なんだか熱烈に褒められたような、祝福されたような、よくわからないけれど、とにかく自身の味方になって気持ちに寄り添う言葉をくれるナナバが、マヤにはただの面倒見のいい先輩以上の存在になっていく。
「ナナバさん、うまく言えないけど…、そうやっていつも優しいナナバさんが好きです…」
「おぉ! マヤから告白されちゃった!」
冗談めかして片目をつぶったナナバは、すぐに好意の気持ちを投げ返す。
「私だって好きだよ、マヤ。兵長と幸せになるんだよ?」
「はい」
幸せになれだなんて言われてマヤの顔が赤くなっているのは、湯にのぼせたからではない。
「……で! 訊きたかったんだ。なんで兵長と一緒にいないのかってね。壁外調査の前日だろ? マヤとつきあう前は告白から逃げ回っていただろうけど、もう逃げる必要はないはず。堂々とマヤと過ごせばいいのに、なんで一緒にいないでマヤは一人淋しく風呂に来たの?」
「兵長は駐屯兵団に出向いてるんです、壁外調査の計画表を持って」
「あぁ、そっか。でもそんなの…、提出してすぐに帰ってくればいいことだろ? あっ! 夜に一緒に過ごす約束をしてるんだ?」
「そんな約束、してないです。大体、兵長が何時に帰ってくるかも知らないし…」
「あれ、そうなんだ。兵長とどう過ごすか教えてもらおうと思ったんだけどな」
残念そうな顔をしているナナバに、マヤはふわっとした笑顔を向けた。
「もしこのあと兵長が帰ってきても、ごはんを食べて部屋まで送ってもらってそれだけですよ?」
「……それだけ?」
「はい、それだけです。いつもそうしているから、今日もそうだと思います」
「そっか、なんか物足りないけど、つきあったばかりだもんね、そんなものかもね」
ナナバは納得したとばかりに、大きくうなずいた。