第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「そうよ。だからこれからは、ちゃんと私も飛ぶって決まってから申請書を出して?」
「……わかったよ」
内心は渋々だが同意してくれたオルオに、マヤはひとつ頼みたいことが頭に浮かんだ。
「ねぇ、ちょっと見てほしいんだけど…」
「ん? 何をだ?」
「挨拶してみるから」
「……は?」
意味がわからずにいるオルオの前で、ぴしっと背すじを伸ばして姿勢を正す。
「失礼します!」
きちんとした隙のない完璧なお辞儀をしてみせた。
「……どうした? 頭でも打ったか?」
「違うの。どこかおかしくないか見てほしいの」
そしてもう一度頭を下げてみせた。
「………」
「どう?」
「どうも何も…」
今度はオルオが “どうも何も” と言う番だ。
「いつもどおりのマヤのお辞儀だけど…。それがどうかしたか?」
「やっぱりちゃんとできてるのよね?」
「できてるけどよ…。お前さっきから変だぞ?」
「うん…、あのね…」
マヤはリヴァイに部屋まで送ってもらったときの別れ際に言われた “おいそれなんとかならねぇか” の話をした。
「思い当たることが、お辞儀の仕方が悪かったのかな… くらいしかなくて」
「いやそれ絶対違うだろ」
「そうかな?」
「そうだって!」
「……じゃあ何が駄目だったの? 何が “なんとかならねぇか” なのかな?」
「そりゃ…」
オルオは少し考えてみる。想像してみる。
……マヤと兵長はつきあったばかりだろ?
つきあいたての晩メシ。まだ何もかも初々しい。
そして食後部屋に送っていった。名残惜しくてすぐには立ち去れずにいたに違いない。
でも別れるときがきた。
マヤがびしっと完璧なお辞儀。放たれたセリフは “失礼します!” …。
……完全に上司と部下じゃねぇか。
「マヤ… 兵長は、そんな任務のときみたいなんじゃなくて、彼女らしくしてほしかったんじゃねぇの?」