第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
……なんだったのかな?
マヤは一歩部屋に入ったところで立ち止まり、今しがたのリヴァイの “おいそれなんとかならねぇか” に首をかしげる。
………。
全く何も浮かばない。
強いて言えば、失礼しますと挨拶をしたときの態度もしくは姿勢でも悪かったのだろうか?
……いや、そんなはずはないわ。正しい挨拶は身にしみついているもの。
ならば一体なんだろう、ゆっくり考えたい…。
しかしペトラが待っていると思うと、風呂に急いで行かねばならない。
マヤは浮かんだ疑問を突き詰めて考えることより、風呂への準備を優先した。
「畜生! また負けた!」
「ふふ、だから2秒でいこうって言ったのに」
次の日の早朝、場所は二人が乗ってもまだ余裕のある枝の上。
約束どおりに立体機動訓練の森で落ち合ったマヤとオルオは、久しぶりにいつもの “先に飛んでいるマヤを、オルオが追いかけて捕まえる”、いわゆる追いかけっこ方式の訓練を終えたところだ。
「ねぇ、いい加減に3秒じゃなくて2秒スタートにしない?」
「いいや! 絶対いつか3秒で捕まえてみせる。これは俺の意地だ」
「結構頑固だよね、オルオも」
マヤの言葉にすぐさま反応する。
「オルオもって、“も” って誰だよ?」
「もちろんペトラ。ペトラも言い出したら聞かないし」
「あぁぁ、そうだな。すっげぇ頑固だよな、あいつ」
「うん。よく似てるよ、さすが幼馴染み」
「……そうか?」
どことなく嬉しそうなオルオ。
「でよ…、その…」
「……ん? なあに?」
「昨日ペトラが夜、マヤの部屋に遊びに行ったんだろ? 何か俺のこと言ってたか?」
少々恥ずかしそうにはしているが、オルオは常にペトラのことが気になるとみえる。
「あぁ、それね…」
マヤは申し訳なさそうな声を出した。
「私がお風呂から帰ってきてからペトラの部屋をノックしたんだけど、寝ちゃったみたいで…。だからなくなったの」
「なんだ、夜の女子会はなかったのか」
「何よ、その “夜の女子会” って」
「うまいこと言うだろ?」
「………」
得意そうにしているオルオを見て、マヤは何も反論しなかった。
「マヤが風呂に行ってるあいだに寝ちまったか、ペトラらしいな」