第27章 翔ぶ
「レイモンド卿は単刀直入に言ってきたんだ、“マヤとの結婚を承諾してくれ” とね」
“マヤとの結婚” という言葉にリヴァイの眉がぴくりと動く。
「私はすぐには何も答えなかった。ただじっとレイモンド卿の顔を見ていた。次に何を言うか非常に興味があったのでね」
「……興味?」
「あぁ。純粋にマヤへの愛を訴えてくるのか、結婚したら必ず幸せにすると約束してくるのか、それとも…」
エルヴィンはここで言葉を切って、意味ありげに笑みを浮かべた。
「何か…、こちらに有利な条件でも提示してくるのか…」
リヴァイの眉がぴくぴくと動く。
「私の知りたい答えはすぐに彼の口から飛び出してきたよ。多額の寄付金は当然だとは思っていたが、一時的なものではなく未来永劫つづけてくれるらしい。それに加えて施設も馬も食料も医薬品も…、すべてだ。兵団が必要とするすべてのものを全額保証すると」
リヴァイは不愉快そうに、すでに刻まれていた眉間の皺を一層深くした。
「セバスチャンから聞かされてはいたが、あらためてお前の口から聞くとおぞましいな…」
「そう言うなよ、リヴァイ。これはマヤがレイモンド卿の申し出を受け入れた場合の付加的な価値にすぎない。そもそもプロポーズを承諾しなければなんの意味もない条件の羅列だ。マヤには、プロポーズの返事を考えるときに一切気にしなくても良いと伝えてあるし、最初は誤解があったようだが最終的には納得したからなんの問題もない」
「ハッ、どうだか。お前はそのつもりでも、マヤからすれば枷にしかならねぇと思うが」
「……枷? やけに重い言葉を使うんだな」
「当たり前だ。マヤが自分のことだけを考えるやつだと思うか? そうじゃねぇだろ。あいつは絶対に自分のこと以上に仲間の…、そして兵団のことを考えるはずだ。そんな真面目で優しいマヤに、いくら単なる条件だとか気にするなとか言ったところで、それは枷以外の何ものでもねぇ。そんなことは俺に言われなくてもわかって…」
リヴァイはハッと口をつぐんだ。
そして。
「……エルヴィン、お前は本当にたちが悪いな。今俺が言ったことは全部織りこみ済みなんだな。マヤの優しさにつけこんで…!」
団長室に、リヴァイの怒気を含んだ低い声が響いた。