第27章 翔ぶ
まだ水の入ったコップを左手に持ったまま、ペトラの言葉になぜか身をかたくしているマヤ。
すぐにペトラはその様子に気がついた。
「……ん? どうした? 私、なんか変なこと言った?」
「ううん、そうじゃないの…」
「だよね。だってマヤがレイさんのプロポーズを断ることは決まってるんだし」
「うん…」
「なんか歯切れが悪くない? 寄付とかそういうのは気にしなくていいんでしょ? マヤは考えちゃうかもしれないけど、気にしなくていいって言われてるんだから気にしない! わかった?」
ペトラがベッドから少し身を乗り出して、マヤの肩を叩く。
「そうだね、わかった」
肩から伝わってくるペトラの想い。
“大丈夫”、大丈夫だからね” と力強く。
「マヤ、こういう夜はね。何も考えずにとりあえず寝た方がいいよ」
「え?」
マヤとしてはペトラが帰って部屋で一人になったら、ゆっくりと今日に起こったことを整理して、自身の気持ちと向き合って、そのうえでじっくりと考えたいと思っていたのだ。
「マヤはさ、クソ真面目だから。絶対あれこれ考えすぎちゃって今夜は眠れなくなっちゃうパターンだよ。もうね、そういうのは寝るのに限る! 寝てすべて忘れて、どうせ無駄に五日もあるんだから、適当に四日目の晩にちらっと思い出して、やっぱり断るしかないよねと自分の気持ちを再確認すればいいだけの話」
「……悩んで眠れなくなるって言ってるのに寝て忘れろって、なんか、どこか、おかしくない?」
「もう! そういうところがクソ真面目なんだよ。私の言いたいのは、眠れなくなるけど無理してでも寝ろってこと!」
ペトラはあごに手を当て少しのあいだ良い方法はないかと思案していたが、何かを思いついたらしく顔がぱあっと明るくなった。
「そうだ、オルオの言ってたやつ! 眠れないときは巨人を数えるのよ」
「あぁぁ、あれね」
壁外調査で巨人に襲われたあとの宿営の兵長の部屋での出来事を、マヤは思い出す。