第27章 翔ぶ
「だから…」
ミケは大事な部下であるマヤの気持ちが最優先だという想いを声ににじませて。
「レイモンド卿が出してきた条件なんかはマヤが結婚を選択した場合のおまけみたいなものだと思って、ゆっくりと自分のことだけを考えて決めればいいと俺は思う。……そうだな?」
最後のひとことはエルヴィンに向かって放つ。
「ミケの言うとおりだ、マヤ。レイモンド卿がどのように伝えたのかは知らないが、私はマヤと結婚していいと許可した覚えはない」
「そう、エルヴィンはあくまでも条件に対して承諾したのに、やたらレイモンド卿は驚いていたな…。“本当にいいのか、団長? オレとマヤが結婚しても?” と目を丸くしていた。断られるのを覚悟で切り出したんだろうな」
ミケは昼間のレイの顔を思い出して、鼻をフンと鳴らした。
「結婚しても? と訊かれても、あの時点で私にわかる訳がないし、そもそも私はマヤではない。プロポーズを受けるも断るもマヤであるのに。今この瞬間もまだ、マヤがどう決断するのかは決まっていない」
「あぁ、だからエルヴィンは確かこう言っていたな…。“マヤとの結婚は、いいも悪いもなんとも言えない。結婚する未来も結婚しない未来も両方に可能性はある。未来は不確定だ。いつだって誰にでも、どんなことも起こり得るからね。だから私は、私に今できる最良の判断をするだけですよ、レイモンド卿”」
「私のその言葉をポジティブに受け入れたレイモンド卿は、意気揚々とこの部屋を出ていった…」
エルヴィンとミケはここで顔を見合わせた。
あのとき… 昼の時点では、レイはエルヴィンの承諾を受けて、もうマヤとの結婚はなかば決まったような雰囲気でいたけれど、実際に今目の前にいるマヤはどう見てもプロポーズを受け入れるようには見受けられない。
……気の毒にな。
ミケはそう考えたが、エルヴィンは違った。
……まだマヤが断ると決まった訳ではない。