第26章 翡翠の誘惑
最速で駆け寄ってきたアレキサンドラは、軽やかに白い大理石の手すりに飛び乗ると。
「ミャオン!」
嬉しそうにレイに向かって甘えた声を出した。まだアクアマリンの耳飾りをしっかりと咥えている。
「アレキサンドラ、返してもらうぜ?」
右手を出したレイの顔をじっと見つめ返して、拒否するかのように首を振る。
「アレキサンドラ!」
大好きなレイに怒鳴られて、アレキサンドラは渋々レイの右手に耳飾りを落とした。
「よし、いい子だ」
「ミャオン…」
まだ未練がましくレイの手の中のアクアマリンを見ている。
「マヤ、こいつはな… 光ってる物が好きなんだ」
「そうだったんですか…。だから離さなかったのね?」
レイに撫でられながら喉をゴロゴロと鳴らしているアレキサンドラに対して、マヤは優しい顔で微笑んだ。
「あぁ、そうだ。こいつの寝床にはどこから拾ってきたのか光り物だらけでな…」
「ふふ、首輪もキラキラですね」
こうやって近くでアレキサンドラの首輪を目にすると、はめられている宝石の大きさが甚だしい。そら豆くらいありそうだ。
「あまりにも光り物への執着がすごいから、ルビーとエメラルドで首輪を作ってやったってぇのにこのざまだ」
取り返したアクアマリンの耳飾りに目をやりながら、レイはため息をついた。
アレキサンドラはそんな飼い主の様子などおかまいなく、ゴロゴロと喉を鳴らして目を細めている。
その様子を微笑ましく眺めていたマヤは、あることに気づいた。
「ねぇレイさん…。今思ったんですけど、アレキサンドラには自分の首輪にはまっている宝石は見えないからじゃないですか?」
マヤのその言葉を聞いた途端に、アレキサンドラはまるでそのとおりだと言わんばかりにミャオと鳴いた。
「ほら、アレキサンドラもそうだと言ってますよ?」
「ハッ、なるほどな。そうだったのか、アレキサンドラ。せっかく首輪にお前の好きな石っころをつけてやったが、見えなきゃ意味ねぇよな。悪かったな」
謝って優しく撫でてくれるレイの左手に、アレキサンドラは頭をぐりぐりと押しつけて “わかってくれてありがとう” と嬉しい気持ちを表した。