第26章 翡翠の誘惑
「だから親父さんが舞踏会に顔を出さないようにしないと駄目だったんじゃねぇか? 詰めが甘かったな、レイ」
レイがマヤと思いどおりに一緒にいることができずに不機嫌な顔をしている原因は、そもそも舞踏会にバルネフェルト公爵を出席させないようにしなくてはならなかったのに、そうしなかったせいだと、アトラスは少々得意げな口調で突きつけた。
なぜ得意げかといえば、原因を突き止められたことによる自賛の想いがあふれ出たからだ。
「……そんなことはな、わかってるんだよ!」
てっきり “あぁ、そうだったのか…!” と、原因を突き止めた自身に対して礼でも言ってくれるのかと思えば、逆に怒鳴られてしまった。
「親父がいれば巨人の話を聞きたくて、調査兵であるマヤやペトラを自分のそばから離さないなんてことは…、お前に言われなくてもわかってる。だからオレがホストになったんだろうが!」
「……悪ぃ、ちょっと意味がわからんが?」
「親父にはずっとホストをやれ、立派にホストをできるようになってこそ貴族の当主として一人前だとかなんとか言われつづけていたが、面倒だし… そもそも舞踏会にも、そこで出逢う女にも興味はねぇし逃げていたんだ。だからオレがホストをやると聞いて親父は喜んだよ。そこでオレはうまく親父を遠ざける方法を考えたんだ。“オレ一人でどこまで通用するか勝負してぇから一切口出ししねぇでほしい” とな」
「へぇ…」
初めて聞く今宵の舞踏会の裏話に、アトラスは興味深そうに耳を傾ける。
「それからオレは、口出ししないだけではなく舞踏会に顔も出さないでくれとも言った。親父がいるだけで、招待された皆が気を遣うだろうからと。無論、親父は快諾した。息子がやっとホストをやる気になったんだ…、当然だよな。だから親父は招待客リストも知らねぇし、舞踏会にも顔を出す予定じゃなかったんだ!」
苦々しい表情で、レイは叫んだ。
「そうだったのか…」
アトラスはレイの勢いに押されたものの、すぐにハッと気づいて反論した。
「じゃあなんで親父さん、出席してるんだ?」
「それはな…」
レイの声が怒りで震えている。
「……あの忌々しい兵士長のせいだ」